私の趣味の一つに、関東近郊の〝山城〟を巡ることがあります。
山を登り、堀切や曲輪を見つけた時の高揚感はたまりません。
そして、自然の中にひっそりと残る〝人の手の跡〟に出会った瞬間、「ここに確かに人がいた」と実感します。数百年前、敵の侵入を防ごうと命懸けで山を切り拓き、汗を流した人達の営み・・それは目に見えないけれど、今もそこに息づいています。
家も同じです。
私は、大掛かりなリノベーションの解体後の整然とした空間が大好きです。特に古い木造在来においては、たまらない魅力を感じています。だから、担当者に工程を確認し、必ずそのタイミングで現場へ足を運びます。プロのカメラマンになったつもりで(笑)、光の入り方等を気にしながら写真を撮るのです。あの瞬間にしか出逢えない、何とも言えない美しさを見たいがために。
そして、思いを馳せます・・
この家を建てた、かつての職人の姿を。
恐らく、「どうすれば長持ちするか?」「どう組めば美しいか?」きっとそんなことを考えながら、木と真剣に向き合っていたはずです。名前も顔も知らないけれど、確かにこの場所に存在した一人の職人。その想いが今も尚、構造材の一つ一つに宿っている気がして、リスペクトせずにはいられないのです。
私達の仕事は、過去に込められた想いと、これから始まる新しい暮らしを繋ぐ橋渡しではないでしょうか?ただ単に古いものを壊して新しくするのではなく、受け継ぐ価値のあるものを見極め、次の世代へと丁寧に繋ぎ直す。
だから、私達の仕事もまた〝物語の一部〟なのです。
この浪漫ある仕事に就いていることを心から誇りに思うと共に、受け継がれてきた想いに恥じぬよう、誠実に、そして情熱をもって、今日もまた家と向き合いたいと思います。
代表取締役 松戸 明