米不足のニュースは、記憶に新しいかと思います。
価格が倍になり、政府が備蓄米を放出しても追いつかない。インフレの影響、政策の迷走・・メディアはこぞって騒いでいますが、私はこの問題を見て、建築業界にもそっくりそのまま当てはまると思っていました。
農家がいなければ食卓は守れない・・
それと同じように、職人がいなければ、住宅を建てることも直すことも出来ません。高齢化、人手不足、後継者不在・・どちらの現場もまったく同じ構図にあります。なかでも、私が強く苛立ちを感じているのは、人を育てている人・・つまり親方が、全く報われていないことなのです。
弊社の場合、営業&現場管理、及び、設計が人材の中心ですが、職人を未経験から雇用し、独立出来るまで鍛え上げたことがあります。もちろんそれには、協力会社の親方の粘り強い指導があってこそでした。
私は、職人を単なる労働力として見るのではなく、一人一人が「いっぱしの親方」になれるように背中を押してきました。なぜなら、職人になりたいという志のある若者は、いつか独立したいという夢を持っているものだからです。そんな前向きな人間だからこそ、私も本気で育てようと思える訳です。それが、いずれ弊社にとっても強力な仲間、つまりパートナーになってくれる。だからこそ、「育てること」は会社にとってもWin-Winなのです。
しかし現実は、技術を教えるには、とにかく時間が掛かります。現場で覚えさせ、何度も失敗させ、それでも手を差し伸べる。育てているうちに、自分の仕事がどんどん後回しになっていく。それが評価されることもなく、国からの支援もなく、社会からの理解も有りません。
なぜ、職人を育てている企業や親方にこそ支援がないのか?
なぜ、若者を引き受けている現場に光が当たらないのか?
私は、ずっと疑問に思っていました・・
さて、ドイツには、「マイスター制度」というものがあるのをご存じでしょうか?
技術と人を育てる親方には国家資格が与えられ、補助金や税制優遇もあるのだそうです。職人は社会的にも尊敬され、若者が「将来なりたい職業」として志を持ち、技術を伝える者を国がしっかりと評価し、支える仕組みがあるのです。だからこそ、社会全体の信頼と品質が守られているのです。
一方、日本では職人の世界は今も「3K」として敬遠され、現場の教育は「民間の善意」に丸投げされてきました。職業訓練校は減らされ、学歴偏重の空気は変わらず、若者が職人を「かっこいい」と思える社会でもない・・
だからと言って、人が足りないからと外国から低賃金の労働力を入れる?おいおい、ちょっと待って下さいよ!
農家に補助金を検討するなら、職人にも同じくらいの支援があって当然ではないでしょうか?いや、それ以上に、「人を育てている親方」にこそ支援があるべきではないでしょうか?
現場の技術は、学校では学べません。背中を見て、手を動かし、叱られて、褒められて、血と汗の中で覚えていくものなのです。
親方とは、技術の伝承者であり、教育者であり、そして何より「責任」を次世代に引き継ぐ、超がつくほど貴重な存在であり、国の宝と言っても過言ではないと思っています。
その親方達が、今、減ってきています。
疲れ果て、弟子を取らなくなってきています。
技術の火が、静かに消え始めている・・それをひしひしと感じています。
だからこそ、米の価格が上がったように、職人の人工(手間賃)も上がって良いと思います。いや、上がらなければおかしいのです。
安さを売りとしてきたリフォーム会社は、職人の人工を叩くだけではなく、適正な価格を顧客にご理解頂けるよう、正直に伝えていくべきです。
もしインフレが課題なら、消費者側にも更なる補助金や助成を充実させましょう!政治家や官僚には、もっと現場と経済の繋がりを理解して頂きたいと思います。このままでは、日本の暮らしを支えてきた「現場の力」が、静かに消えてしまいます。
技術なき国は廃れ、食糧なき国は滅ぶ・・
だとすれば、一刻の猶予もないのではないでしょうか?
技術の火を、絶やしてはいけません。
技術を受け継ぎ、責任を背負い、志を持って独立する・・
この循環こそが、世界に誇る、「高度な日本の建築技術」を育んできたのです。
夢をもった職人を、一人でも多く世に送り出すために、その土台となる「育てる側」に、もっと光が当たる国にしなければならない。それは、私達の切なる願いであり、この国の未来を守るために、国が責任をもって取り組むべき使命だと断言します。
代表取締役 松戸 明