本稿では「リ・バース60」について解説します。このローン商品は、リバースモーゲージの用途を住宅関連に特化したものです。老後の資金不足が心配で「やりたいリフォームができない」と感じておられる方の、参考情報になれば幸いです。
若い頃に取得したマイホームは、定年退職するころに「あちこちの老朽化が気になるタイミング」を迎えます。老後に備えて「気力があるうちにリフォームしておきたい」と感じておられる方が少なくないでしょう。
とは言え、高齢になると住宅ローンを借りるのは困難です。さりとて、老後生活費のことを考えると自己資金でリフォームするのもためらいを感じます。何か他に有効な方法はないのでしょうか?
そんなときに使える資金調達方法をひとつでも多く知っておくのは、無駄ではありません。本稿で、リバースモーゲージや「リ・バース60」の知識を深めてみませんか?
60歳以上が住宅ローンを借りるのは難しい?
60歳以上は住宅ローンを借りるのが難しくなりますが、それは一体なぜでしょうか?住宅ローン以外に資金を調達する方法はないのでしょうか?さっそく、一緒に考えていきましょう。
60歳前後の方々は、長い「老後」の生活資金に対して不安をお持ちでしょう。眼前には「人類の長寿命化、破綻しそうな年金制度、老後資金2000万円問題」などの諸問題が横たわり、手元の現金はできるだけ残しておきたいと考えるのも無理はありません。
一方身の回りに目をむけると、60代は若いころに建てたマイホームの老朽化が目に付き始める頃です。あなたも、以下が気になっているのではないでしょうか?
・水まわり住宅設備の交換
・外壁や屋根のリフォーム
・バリアフリー化
・断熱改修
・耐震改修
このような大規模リフォームを行うには、まとまった資金が必要です。とは言え、60代はローンを使った資金調達が難しいのです。その理由を、いくつかあげてみましょう。
・給与所得がなくなる(収入は年金のみ)
・ローンは「安定した継続収入がある方」を対象としている
・返済可能な期間が短い(完済時年齢の制限がある)
・そもそも、月々の返済が負担になる
このような事情を考えると、老後の生活に不安を感じないくらい潤沢な貯蓄がある方しか、大規模リフォームができないでしょう。
では、どうすればいいのでしょうか?不安はあれども必要最低限の修理をおこない、ヒートショックや地震による倒壊の危険性には目をつむって、そのまま暮らすしかないのでしょうか?修繕もあきらめ、自宅を売却して引っ越すしかないのでしょうか?
実は、このような状況にある方が少なくないと思われます。そこでにわかに注目され始めたのが、自宅を担保に資金調達できる「リバースモーゲージ」です。
リバースモーゲージ型住宅ローン「リ・バース60」とは?
続いて、リバースモーゲージ型住宅ローン「リ・バース60」について解説していきましょう。まずはカンタンに「リバースモーゲージ」と「リバースモーゲージ型住宅ローン」の概要からご説明します。
リバースモーゲージ型住宅ローンとは?
リバースモーゲージは、自宅を担保に融資を受ける「シニア向けローン」商品です。月々の返済が不要、若しくは利息分のみで済み、契約者がお亡くなりになったときに現金または担保不動産で一括返済します。
リバースモーゲージについては、こちらの記事でも解説しています。もっと詳しく知りたい方は、合わせてご覧ください。
このリバースモーゲージは、現在、注目度が急激に上がっています。日経新聞によると「推定融資残高は1600億円前後と過去3年で500億円ほど増加」しているそうです。
参考:リバースモーゲージ、3年で500億円増 老後資金需要で
では、リバースモーゲージ型住宅ローンとは何でしょうか?
リバースモーゲージ型住宅ローンは、用途を住宅関連に絞ったリバースモーゲージ商品です。リバースモーゲージは融資金を生活費に使えますが、リバースモーゲージ型住宅ローンは住宅の建築や購入、リフォーム、高齢者むけ施設の入居費用など、使途が住宅関連に限られます。
それでは、本稿の本題に映ります。リバースモーゲージ型住宅ローンのひとつ「リ・バース60」について解説していきましょう。
リ・バース60の商品概要
リ・バース60は、フラット35でお馴染みの独立行政法人「住宅金融支援機構」と民間金融機関が提携して提供するリバースモーゲージ型住宅ローンです。収入が年金のみの方でも利用できる「60歳からの住宅ローン」として、注目を集めています。
リ・バース60は、例えばこんな方に向いています。
・お子様が独立していて、すでに自分で住宅を所有している
・ご自宅をお子様が受け継がない、または継がせる相手がいない
・将来のために、できるだけ手元に現金を残しておきたい
このローン商品の仕組や利用要件の大枠は住宅金融支援機構が定めていますが、細かい運用ルールは窓口となる金融機関によって変わります。たとえば、金利は金融機関ごとに違いますので、よく確認してから契約することをおすすめします。
参考まで、いくつかの金融機関の「リ・バース60」をご紹介しておきましょう。
・横浜信用金庫の「リ・バース60」
・川崎信用金庫の「リ・バース60」
・三井住友銀行の「住み替え新時代」と「借り換え新時代」
リ・バース60の正式名称は「住宅融資保険付住宅ローン」と言い、あらかじめ機構と金融機関の間で「住宅融資保険契約」が締結されています。
この契約によって、契約者や相続人が契約終了時に残債務を一括返済できないときは、機構が金融機関に全残元金を支払います。そのあと機構は、担保物件(住宅および土地)の売却などにより資金を回収します。
この契約があるおかげで、金融機関はリバースモーゲージ特有の担保価値下落リスク等を回避できます。リスクが下がれば、金融機関も貸し出し条件の敷居を下げやすくなります。
リ・バース60の仕組(借り方・返し方)
リ・バース60の貸し出し審査に通ると、住宅取得やリフォーム等の際に必要な資金を融資してもらえます。毎月の返済は、利息分のみでOK。元金は、ご契約者がお亡くなりになったときに一括で返済します。
返済方法は、相続人が現金で一括返済するか、担保物件(住宅および土地)の売却により返済します。売却代金が元金をオーバーした場合、その余剰金は相続人が受け取れます。
ご契約者がご存命中に、元金を繰上返済して完済することも可能です。
リコース型とノンリコース型
契約終了時に担保不動産を売って返済する場合、担保不動産の価値が下がり売却代金が元金に満たなくなってしまうケースがあります。このようなケースを想定して、リ・バース60には2つのタイプの商品が用意されています。
・リコース型:相続人が残債を返済する必要がある
・ノンリコース型:相続人が残債を返済する必要なし
リコース型は相続人による残債の返済が必要で、ノンリコース型は返済が不要です。利用者からすると「ノンリコース型」のほうがお得に感じますが、融資側からすると貸付リスクが高くなります。ですから、ノンリコース型は審査基準や融資条件(金利など)が厳しくなります。
余談ですが、ノンリコース型を選んで実際に残債の返済が免除されたとき、免除分は「債務免除益」とみなされ一時所得になります。これに所得税等が課税される可能性がありますので、覚えておくと良いでしょう。
融資条件
つづいて、リ・バース60の融資条件を見ていきましょう。ただし、金融機関によって条件を調整している可能性もあるので、ご利用になられる金融機関でも確認してください。
年齢
リ・バース60は、借入申込日現在で満60歳以上の方が利用できます。「リ・バース50」という商品もあり、こちらは満50歳以上満60歳未満の方もご利用いただけます。
なお、りそな銀行の「あんしん革命」はリ・バース60を活用した商品ですが、満50歳から利用可能です。
返済負担率
リ・バース60では、融資上限額(極度額)の計算に年収と返済負担率(総返済額が、収入に占める割合)を利用しています。具体的には、年間の返済総額が年収に対して以下の割合以下になるように融資額を調整しているのです。
・年収400万円未満の場合:30%以下
・年収400万円以上の場合:35%以下
例えば年金収入が「年間120万円」だとすると、ローンの融資上限は返済額が「月々3万円 (120万円×30%÷12か月)」以内に収まる額になります。
尚、このときの返済額(月々3万円)には、リ・バース60の返済(金利分の利息)だけでなく、カーローンやカードローンなど利用中の全ての融資返済を含みます。
資金使途
リ・バース60で得た資金の使い道は、住宅関連のものに限られます。いくつか例をあげてみましょう。
・リフォーム資金
・住宅の建築資金または購入資金
・サービス付き高齢者むけ住宅の入居一時金
・子世帯などのマイホーム取得を支援するための資金
・住宅ローンの借り換え資金
リ・バース60は、住宅ローンからの借り換えにも利用できます。例えば、定年退職時にまだ住宅ローンが残っている場合、リ・バース60に借り換えることで月々の返済額が下げられます。
ただし、リ・バース60の金利は住宅ローンの金利より高いので、最終的な総返済額はリ・バース60のほうが高くなります。その点は注意が必要です。
保証人
リ・バース60は、保証人が原則不要です。先述のとおり住宅金融支援機構の「住宅融資保険」が付保され、保険料は金融機関が負担してくれます。
ただし、担保不動産が共有になっている場合は、共有名義者が物上保証人になります。物上保証人とは、不動産を債務の担保に提供する人のことで、提供した不動産の範囲で有限責任を負います。
限度額
リ・バース60の融資限度額は、次のうち最も低い額、かつ規定の返済負担率を下回る額になります。
・8,000万円
・所要金額の100%
・担保評価額の50%または60% ※1
※1 長期優良住宅の場合は「55%または65%」
メリット
つづいて、リ・バース60のメリットを3つご紹介します。
高齢者が住み続けながら利用できる
大規模リフォームが必要になったとき、高齢者は住宅ローンによる資金調達が困難です。一方、リ・バース60なら、年金収入しかない方でも利用できます。リフォームをあきらめる必要はないし、自宅を手放し引っ越しする必要もありません。
月々の返済が少ない
リ・バース60の月々の返済は、利息のみでOKです。一般的なリフォームローンに比べて、家計への負担が軽く済むでしょう。
ただし、先述のとおり、リ・バース60の金利は低くありません。場合によっては売却による住み替えや、他の資金調達方法のほうがよい場合もあります。最善の選択ができるように、しっかり比較検討しましょう。
要件(対象物件)の間口がやや広い
一般的なリバースモーゲージ商品は、対象地域が「首都圏、関西圏、一部の地方主要都市」に限られています。しかも、担保に対して「金融機関による評価額が1,000万円以上の不動産に限る」等、厳しい基準があります。
一方「リ・バース60」は、リバースモーゲージより対象地域が広く、評価額のハードルも低い印象です。おそらく、金融機関と住宅金融支援機構との間で締結される「住宅融資保険契約」の影響ではないでしょうか。
この保険が付保されることにより金融機関が抱える融資リスクが下がって、貸し出し条件の敷居も下がっているものと思われます。
デメリット(注意点)
つづいて、リ・バース60の短所をご紹介します。一般的なリバースモーゲージとの違いに着目して、ご説明したいと思います。
尚、リバースモーゲージの短所については、以下の記事で詳しく解説しています。気になる方は、合わせてご覧ください。
利用可能な年齢は60歳以上
リ・バース60は、利用可能な年齢が「満60歳以上」となっています。一般的なリバースモーゲージでは「満55歳以上」とする商品が多いので、ここは短所と言えそうです。
ただし、りそな銀行のように「満50歳以上」としている金融機関もあります。やや条件が厳しくなりますが、50歳以上60歳未満の方が利用できる「リ・バース50」という商品もありますので、いろいろ比較してみると良いでしょう。
融資上限額の計算に年収と返済負担率を使う
先述のとおり、リ・バース60では融資上限額の計算に年収と返済負担率を使います。つまり、年収が高く、かつ他に借入がない方のほうが有利ということです。
逆に言うと、年収が低く、他に借入があると不利になります。人によっては必要額が調達できない、あるいは利用できない可能性もあります。
団体信用生命保険に入れない
一般的な住宅ローンは、団体信用生命保険(以下、団信)に加入できます (加入が必須要件になっている)。一方リバースモーゲージ型住宅ローンは、その性質から団信に加入できません。つまり、リ・バース60も団信に加入できないのです。
団信は、契約者がお亡くなりになったとき、あるいは三大疾病にかかったときに以後のローン返済が免除される保険です。とくに住宅ローンからリ・バース60への借り換えを検討されている方は、団信が使えなくなることも検討の材料としておくべきでしょう。
60歳から使えるリバースモーゲージ型住宅ローン「リ・バース60」とは?
60歳以上の方が大規模リフォームの資金を調達したいとき、リバースモーゲージ型住宅ローンが有用です。ご自宅を担保に融資が受けられるので、年金以外の収入がない方でも利用可能です。
リ・バース60はフラット35でお馴染みの住宅金融支援機構が提供するローン商品ですが、窓口は一般の金融機関になります。金利等、諸条件が金融機関によって違いますので、いくつかの機関に相談を持ちかけ比較検討するとよいでしょう。
リ・バース60は、用途が住宅関連にしぼられています。つまり、利用に際して借入額が大きくなりやすいということです。たとえ0.1%の金利差でも大きな利息の差につながりますので、金融機関選びにしっかり時間を使うことをおすすめします。
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