本稿では、リバースモーゲージの概要や仕組みについて、できるだけ分かりやすく解説します。リバースモーゲージの利用をご検討中の方は、最後までご覧ください。
老後の資金不足が社会問題になる中で「貯蓄が底をつくのでは?」と不安を感じるシニアが増えています。節約に励むだけでなく、大きな出費に備えて資金調達方法を検討しておきたいとお考えの方は少なくないでしょう。
そんな今、リバースモーゲージが注目されています。しかし、まだ実績が乏しいローン商品ということもあり、利用に警鐘を鳴らす専門家もいます。実際のところ、リバースモーゲージは、本当に危ない商品なのでしょうか?
本稿を最後までご覧いただき、リバースモーゲージのどこが長所でどんな危険性があるのか、基礎知識を学んでみませんか?
リバースモーゲージとは?
早速、リバースモーゲージの概要や注目が集まった背景について解説していきましょう。
リバースモーゲージの意味と概要
リバースモーゲージを一言で説明するなら「シニア世代向けのローン商品」です。自宅を担保にして融資を受けるので、年金以外の収入がない高齢者でも利用できます。
では、同じく自宅を担保にして融資を受ける「住宅ローン」とはなにが違うのでしょうか。カンタンにご説明しましょう。
・住宅ローン:最初に一括で借入を行い、その元本と利息を毎月少しずつ返済
・リバースモーゲージ:融資限度枠内で毎月少しずつ借入を行い、最後に一括返済
住宅ローンは、返済する度に元金が減っていきます。一方リバースモーゲージは、融資限度枠内で徐々に借入を行い、少しずつ元金と利息が増えていきます。この性質から、名前に「リバース=逆」と付くのです。
両者の違いを比較して、表にまとめてみましょう。
項目 | リバースモーゲージ | 住宅ローン |
借入 | 徐々に借入を行う | 最初に一括で借りる |
月々の返済 | なし、または利息分のみ | 元金の一部+利息を徐々に返済 |
元本 | 徐々に増える | 徐々に減る |
金利 | やや高い | 低い |
用途 | 原則自由 | 主に住宅の建築・購入・リフォーム |
主な審査基準 | 担保不動産の評価額 | 融資額の多寡やお勤め状況 |
取り扱い | 主要な都市部の金融機関 | 全国の金融機関 |
因みに「モーゲージ」は「抵当 (権)、担保、貸付金」を意味する英語で、不動産を担保にしたローンを指して使います。ですから「モーゲージバンク」は住宅ローン専門の金融機関のことで、国内では主に「フラット35」を専門に取り扱う金融機関を指します。
リバースモーゲージは「用途」を原則自由としている金融機関が多数です (ただし、事業資金や投資資金には使えない)。例として、以下の使い道が考えられます。
・生活資金
・医療・介護資金
・高齢者むけサービス付き住居の入居費用
・建て替え資金
・リフォーム資金
・住宅の建築・購入
・住宅ローンからの借り換え
リバースモーゲージを取り扱っているのは、銀行や信用金庫だけではありません。他にもあるので、代表的なものをリストアップしておきます。
・銀行や信用金庫
・ファイナンス会社
・ハウスメーカーの金融部門
・住宅金融支援機構(窓口は金融機関)
・自治体(社会福祉協議会)
リバースモーゲージは主にご自宅の土地を担保にして融資を受け、契約者がお亡くなりになったときに現金による一括返済、または担保の不動産で代物返済します。
ですから「資産価値が高い不動産を所有している方」かつ「子どもに住宅を相続しなくてもよい方」にむいているローン商品です。お子様がすでに住宅を自己所有していて親の遺産をあてにしていない場合は、有用な資金調達手段になるでしょう。
リバースモーゲージの目的と注目され始めた背景
リバースモーゲージの理解を深めていただくために、注目され始めた背景をご説明しておきます。
国内のリバースモーゲージは、1981年に東京都武蔵野市が福祉目的で実施したことに始まります。80年代半ばには、多くの自治体や信託銀行でも商品化されました。しかし、バブル期が終わると不動産価格の下落と担保割れが顕在化して、ほとんどの商品が姿を消してしまいます。
公的機関や民間金融機関によってリバースモーゲージ商品が再び開発・実施されるようになったのは、2002年以降です。それが、以下のような不安要素が増大したこともあり、注目されるに至ったのです。
・長寿化
・高齢無職世帯の家計の赤字
・老後の資金不足が社会問題化
日本人の平均寿命は延びつづけていて、若者を中心に「老後資金が足りないのではないか」と不安をつのらせています。これはシニア層も同じで、金融資産を切り崩しながら生活していて、いつまで貯蓄がもつか不安を感じているのです。
参考:総務省「家計調査報告(家計収支編)」によると高齢無職世帯の家計収支状況は赤字
そんな状況で「老後資金2000万円問題」が飛び出します。「人生100年」も現実となりつつあり「もはや、老後を充実させる余裕はなくなった」と感じたシニアは少なくなかったでしょう。
そこでにわかに着目されたのが、マイホームです。現在の高齢者は高度成長期にこぞってマイホームを取得した世代で、持ち家率が高いのです。ですから「これをうまく活用できないか」と、みんなが頭をひねった訳です。
しかし、不動産は流動性が低く、すぐにお金に換えられません。売れば新居を探す手間も生じます。この2つを解決する手段として、リバースモーゲージに注目が集まりました。
今は「少子高齢化」が急激に進んでいる時代です。高齢化に対応した金融サービスの開発や充実は喫緊の課題で、この状況もリバースモーゲージの広がりを後押ししました。今後、ますますの拡充が期待されるとともに、より安心・安全に利用できる環境の整備が求められています。
リバースモーゲージの仕組み
ここからは、リバースモーゲージの融資方法や返済方法をご紹介します。利用するにあたり知っておくべき大事なところですので、つづけてご覧ください。
融資方法
リバースモーゲージは、自宅を担保に融資を受けるローン商品です。融資方法は金融機関によって違い、主に以下の4つのタイプにわかれます。
・終身年金型:毎月一定額を終身受け取るタイプ
・定期年金型:毎月一定額を一定期間受け取れるタイプ
・一括型:契約締結時に融資枠全額を受け取るタイプ
・信用枠型:融資枠の範囲内で、希望するときに希望する額を受け取るタイプ
最初に大きな額の融資を受け取ると、高い利息を長期間支払っていくことになります。利息の総支払額もふまえたうえで、ご利用の目的に合わせた融資方法を選ぶとよいでしょう。
返済方法
リバースモーゲージの月々の返済方法は「利払いなし形」と「利払いあり型」の2つのタイプにわかれます。
・利払いなし形:月々の返済なし(利息分も借入元本に組み込まれる)
・利払いあり型:利息分だけ返済
元本については、契約者がお亡くなりになってから一定期間以内に現金で一括返済、または担保不動産で代物返済します。このとき注意したいのが、担保不動産による代物返済です。
リバースモーゲージはご自宅を売ったお金を返済にあてるのですが、契約者の死亡から返済期日まで半年程度としている金融機関が多数です。期間が短く、かなり計画的に売却しないと、最後に投げ売りすることになりかねません。
なお、契約者がお亡くなりになったとき、配偶者の契約引き継ぎを認めている金融機関が多数です。ただし、配偶者にも審査があり、必ずしも契約を引き継げるとは限りません。
リバースモーゲージ型住宅ローンとは?
リバースモーゲージの中には「リバースモーゲージ型住宅ローン」という商品があります。この商品は、リバースモーゲージとなにが違うのでしょうか。
リバースモーゲージ型住宅ローンは、一般的なリバースモーゲージをベースに、利用用途を住宅に特化したものです。想定される主な使い道をあげてみましょう。
・リフォーム資金
・建て替え資金
・住宅の建築・購入
・高齢者むけサービス付き住居の入居費用
リバースモーゲージ型住宅ローンは、利用できる年齢が一般的なリバースモーゲージより少し高めに設定されています。多くの商品が「60歳以上」で、一般的なリバースモーゲージのように「55歳以上」から利用できる商品はあまりありません。
リバースモーゲージ型住宅ローンは、融資上限額の計算に年収と返済率(返済額が所得に占める割合)を使っているケースが多数です。この方法では、給与が高く、かつ他の借入がない方のほうが有利になります。
「リコース型」と「ノンリコース型」
リバースモーゲージは「リコース型」と「ノンリコース型」の2つのタイプを準備している商品があります。契約終了時に残債がある場合、それぞれ相続人の対応方法が違います。
・リコース型:相続人が残債を返済する必要がある
・ノンリコース型:相続人が残債を返済する必要なし
リコース型は責任範囲を限定せず、契約者の残債について相続人が返済義務を負う融資方法です。ノンリコース型は責任範囲が有限で、相続人に残債返済義務がおよびません。
利用者からすると「ノンリコース型」のほうがお得に感じますが、融資側からすると貸付リスクが高くなります。ですから、ノンリコース型は審査基準や融資条件(金利など)が厳しくなります。
リバースモーゲージの注意点
リバースモーゲージは、その仕組み上ご注意いただきたいことが3つあります。順番にご紹介しましょう。
・対象外の住宅がある
・担保評価が低い
・家族でよく話し合う
リバースモーゲージでは、主に土地を担保にして融資をおこないます。ですから対象地域が、首都圏・関西圏・地方の主要都市など、土地の資産価値が高い地域に限られます。対象地域内でも、マンションは対象外としている金融機関がありますので、マンションにお住まいの方はご注意ください。
リバースモーゲージは、後述する「長生きリスク」と呼ばれるリスクを考慮して、担保となる不動産の評価を低く見積もっています (実際の50~70%程度)。よって借入限度額も低めになりますので、必要十分な融資が受けられないかもしれません。
場合によっては、以下のようなリバースモーゲージ以外の資金調達方法も検討しておく必要があるでしょう。
・売却して引っ越す
・リースバックで自宅を売却したあとも住みつづける
リースバックは、ファイナンス会社や不動産仲介会社が取り扱っているリース取引の一種です。自宅を売却して、そのまま賃貸として住みつづけられます。
いずれの方法も一旦自宅を売却するので、市場価格で満額換金できます。また、借入が不要になりますから、利息を払わずに済みます。状況によっては、売却して引っ越しか、リースバックのほうが適当なケースもあるでしょう。
もうひとつ。リバースモーゲージは自宅の売却による完済を想定したローン商品です。ですから、配偶者やお子様など、推定相続人の同意なくして利用を進めることはできません。利用前に、家族でよく話し合うことも欠かせないでしょう。
リバースモーゲージのメリットとデメリット
つづいて、リバースモーゲージのメリットとデメリットをご紹介します。どちらもよく理解したうえで、ご利用されることをおすすめします。
リバースモーゲージのメリット
リバースモーゲージは、高齢者が住みつづけながら利用できます。
たとえばお風呂の交換やバリアフリー改修が必要になったとき、給与所得がないと一般的な住宅ローンが借りられず、そのまま我慢して住みつづけるか売却して引っ越すことになります。こんなとき、リバースモーゲージならご自宅に住みながらリフォーム資金の調達ができます。
返済額が低いのも、魅力です。月々の返済は利息分のみ、あるいは利息の支払いも要らない(利息分も借入に組み込まれる)商品もあります。
この性質を利用すると、定年後も住宅ローンの残債がたくさん残ってしまった場合、リバースモーゲージに借り換えることで月々の返済額を抑えることができます。
リバースモーゲージのデメリット(3大リスク)
リバースモーゲージには「3大リスク」と呼ばれるリスクがありますので、ご紹介しておきます。
金利上昇リスク
リバースモーゲージの多くは、変動金利制を採用しています。変動金利は固定金利より利率が低く、支払う利息を圧縮できますが、契約期間中に金利が上昇してしまうリスクもあります。
リバースモーゲージの金利が上昇すると、月々支払う利息が増えます。当初の想定より融資上限額が下がってしまうこともあります。
担保評価下落リスク
リバースモーゲージの融資上限額は自宅の担保評価額に応じて決まり、この担保評価額は基本的に毎年見直されます。その際、想定外に自宅の不動産価値が下がった場合は、それに応じて融資限度額も下がってしまいます。
長生きリスク
想定より長生きすると、存命中にリバースモーゲージの融資限度額を使い切ってしまいます。そうなると融資が途絶え、支払い利息だけが増えつづけます。
融資枠いっぱいまで借り切ってしまうと、不動産評価の見直しの際に借入残高が借入限度額を上回ってしまうこともあります。この超過分は返済しなければならず、手元資金がない場合はご存命中でも自宅を売却せざるを得ません。
なお、リバースモーゲージの長所や短所、注意点については以下の記事でも詳しく解説しています。もっと知りたい方は、あわせてご覧ください。
》リバースモーゲージのメリットとデメリット
リバースモーゲージの利用条件
さて、リバースモーゲージはどんな方が利用できるのでしょうか。最後に利用条件をご紹介して終わりたいと思います。表にまとめますので、ご覧ください。
項目 | 条件 |
国籍 | 日本国籍の方と、永住許可を受けている外国人の方 |
年齢 | ローン商品や返済方法によって違いがあるが、55歳以上や60歳以上に設定している商品が多数 |
年収 | 年金等の安定した継続収入がある方、職や給与所得の有無はとくに問われない |
担保 | 自己所有で居住中の一戸建て、またはマンション(マンションは対象外の金融機関もある) |
同居人 | 原則として単身、またはご夫婦のみが居住する場合に限る |
その他にも、よく利用条件に上がっているものがありますので、ご紹介しておきましょう。
・ご契約時に判断能力をお持ちの方
・年金の受取口座をリバースモーゲージ利用口座に指定できる方
・ご融資期間中は火災保険にご加入いただける方
リバースモーゲージの利用条件に関しては、以下の記事でも解説しています。もっと詳しくしりたい方は、あわせてご覧ください。
リバースモーゲージとは?リバースモーゲージの仕組みまとめ
リバースモーゲージは、「シニア世代むけのローン商品」で、老後の資金不足を解決する手段のひとつとして注目されています。自宅を担保にして融資が受けられるので、年金以外の収入がない高齢者でも利用できます。
住み慣れたご自宅で充実した老後を過ごしたい、とお考えのシニアは少なくないでしょう。しかし大規模リフォームが必要になったとき、給与所得がないと一般的な住宅ローンが借りられず、そのまま我慢して住みつづけるか売却して引っ越すことになります。
そんなとき、ご自宅に住みつづけながら資金調達できる「リバースモーゲージ」が役立ちます。とは言え、このローン商品にはデメリットもありますので、利用されるときはご家族でよく話し合ってからご活用されることをおすすめします。
▼おすすめの関連記事
》リバースモーゲージのメリットとデメリット
》リバースモーゲージの利用条件と審査内容
》60歳からの住宅ローンリバース60とは